領域からのメッセージ

 新学術領域研究「性差構築の分子基盤」の発足に向けて

2010年度より新学術領域研究「性差構築の分子基盤」が立ち上がりました。2014年度まで、5年間継続される予定です。初年度は計画研究のみの出発となりますが、2010年度中に公募研究の申請を受けることになっており、2011年度から2012年度にかけて第一期公募が、そして2013年度2014年度にかけて第二期公募が発足し、領域として充実した体勢を整えることができると期待しています。

本領域研究では「性差構築の分子基盤」のタイトルのもと、「性差」に焦点を当てた研究を展開します。ご存知のように、多くの生物種には雄と雌が存在し、両者の間には明瞭な性差が認められます。例えば、生殖腺(精巣と卵巣)や外部生殖器官は最も顕著な性差を示す組織の一つですが、その他にも骨格系、脳の構造と機能、鳥では羽の色や鶏冠、魚ではヒレの形など、生物界を見渡せば実に多彩な性差を見ることができます。そして、これらの性差の一部は生物固有の繁殖システムと深く関わりながら進化を遂げたとされています。その代表的な例が、雄の鳥の鮮やかな羽毛です。鳥類には雄が鮮やかで、雌は地味な羽毛を持つ種がいますが、雌が配偶相手の雄を選ぶこと(性選択)を通じ、雄が鮮やかな羽毛を獲得したのでした。つまり、雌に好かれるために、雄は長い年月をかけて美しくなったという訳です。もちろん、性差は配偶相手を誘惑するためだけのものではありませんが、このように繁殖システムと深い関わりを持っています。

個体発生に視点を移してみますと、このような性差は生殖腺の性決定の後に構築されることが分かります。つまり、精巣もしくは卵巣が形成されると、その個体が主に産生する性ホルモンの種類が決まるのですが、この性ホルモンを主要な因子とする内分泌制御系は性差構築を考える上で重要な制御系となります。これに加え、性差構築の基盤となる遺伝的制御系も機能しています。従って、これらの制御系が独自に、そして巧妙に相互作用しながら性差を構築するとの視点が非常に重要となります。本領域研究では、この「遺伝的制御系」と「内分泌制御系」、さらには二つの制御系の相互作用による性差構築の分子メカニズムを明らかにしたいと考えています。

これまで、わたくし達はヒトとはこのような生き物であるとか、マウスやメダカはこのような生き物であると理解してきました。しかしながら、このようなアプローチでは生物のほんの一面を理解したに過ぎないと思っています。雄のヒトとはこのような生き物あり、雄のマウスやメダカとはこのような生き物である。そして、雌のヒトとはこのような生き物であり、雌のマウスやメダカとはこのような生き物である、と理解することで初めてこれらの生物の真の姿を理解することができるのではないかと考えています。

2010年7月
領域代表:諸橋 憲一郎