業績トピックス
2014年4月14日
    Ad4BPの思わぬ機能が明らかに
(計画班:諸橋)
 ヒトを含むほぼ全ての生物は糖(グルコース)を代謝することにより、生命活動に必要なエネルギーを作り出します。この代謝系は解糖系と呼ばれ、9段階の連続した酵素反応によりグルコースはピルビン酸に転換されます(図、右側)。これまでの研究から、この代謝反応を触媒する酵素活性が栄養状態などのシグナルで制御されることが知られていましたが、解糖系を構築する遺伝子全体の発現制御機構については不明でした。
 副腎皮質や生殖腺(精巣と卵巣)はステロイドホルモンを合成する組織です。
Ad4BP/SF-1はこれらの組織で発現し、ステロイドホルモン合成に必要な全ての遺伝子を制御する転写因子として知られてきました。また、Ad4BP/SF-1遺伝子を破壊すると上記の組織が消失することも知られていました。しかしながら、このたった一つの遺伝子の破壊がなぜこれらの組織の消失を招くかについては適切な説明がなされていませんでした。
 諸橋と馬場を中心とする研究グループは副腎皮質細胞で解糖系を構築する全ての遺伝子群がAd4BP/SF-1によって制御されていることを、 次世代シークエンサーを用いた全ゲノムを対象とする実験によって明らかにしました。このように、解糖系とステロイドホルモン産生系が同一の転写因子によって統括的に制御されるという結果 (図)は、この二つの代謝系の密接な関係を想起させるものでした。そして予想どおりに、 糖代謝によって作られる生体材料(アセチル CoA, ATP, NADPH)がステロイドホルモン産生に不可欠であることが明らかとったのでした。また、細胞が増殖するにあたっては多量のATPや生体物質を必要とします。Ad4BP/SF-1遺伝子を破壊したマウスから副腎皮質と生殖腺が消失する原因は、ATPや生体物質の不足に起因する細胞増殖の低下(停止)であると理解することが可能です。本研究では、解糖系を構築する一群の遺伝子を一斉に調節するために Ad4BP/SF-1がこれらほぼ全ての遺伝子の発現を調節していることを示しました。
 解糖系は様々な生命現象や疾患と密接に関連します。例えば、癌細胞、未分化細胞や胎仔の細胞では酸化的リン酸化ではなく解糖系が主要なATP産生経路として働いています。胎仔の未分化性腺が精巣または卵巣に性分化するにあたって、精巣は内部構造を整えつつ、その質量は卵巣に比べて増大します。そしてこの時、精巣の体細胞ではAd4BP/SF-1の発現が亢進します。同様に生後、卵巣が急激に形態を変化させながら卵巣機能を獲得する過程でもAd4BP/SF-1の発現が亢進します。未分化生殖腺や分化しつつある生殖腺で、Ad4BP/SF-1がエネルギー代謝系の調節を通じ、生殖腺の性分化に重要な役割を果たしている可能性は興味深い問題です。

【図の説明】 ステロイドホルモン(アルドステロンやコルチゾールなど)の合成には、原材料および補酵素として、アセチルCoA(図、右下)、ATP(オレンジ色で表示)、NADPH(オレンジ色で表示)が必要です。ATPおよびNADPHはグルコースの代謝過程で産生されます。また、解糖系の最終産物であるピルビン酸はアセチルCoAに転換されます。このようにAd4BP/SF-1はアセチルCoA、ATP、NADPHの産生系(糖代謝)と消費系(ステロイドホルモン産生合成系)を同時に制御していることが分かりました。このような仕組みにより、効率的なステロイドホルモン産生が可能になっていると考えられます。
■ 掲載論文
Baba T, Otake H, Sato T, Miyabayashi K, Shishido Y, Wang C, Shima Y, Kimura H, Yagi M, Ishihara Y, Hino S, Ogawa H, Nakao M, Yamazaki T, Kang D, Ohkawa Y, Suyama M, Chung B & Morohashi K.
Glycolytic genes are targets of the nuclear receptor Ad4BP/SF-1.
Nature Communications, 5, doi:10.1038/ncomms4634, 2014
2014年1月16日
    生殖抑制ホルモン(GnIH)が攻撃性を制御する仕組みを解明
(計画班・連携研究:筒井)
2000年に筒井教授達は新規脳ホルモンである生殖抑制ホルモン(GnIH;神経ペプチドの一種)を発見しました。本研究では、攻撃性の高い鳥類であるウズラを解析モデルにして一連の実験を行い、生殖抑制ホルモンが動物の攻撃性を抑制することや生殖抑制ホルモンによる攻撃性の抑制作用の仕組みを明らかにしました。生殖抑制ホルンを雄ウズラの脳に投与したところ、脳に存在する女性ホルモン合成酵素の活性が高まり、脳内の女性ホルモン量が著しく増加することがわかりました。次に、高濃度の女性ホルモンを雄ウズラの脳に投与したところ、雄ウズラの攻撃性が著しく低下することがわかりました。さらに、女性ホルモンを合成するニューロンには生殖抑制ホルモンの受容体が存在していることも明らかになりました。本研究により、生殖抑制ホルモンは女性ホルモンを合成するニューロンに作用して、女性ホルモンの合成を著しく高めて雄ウズラの攻撃性を低下させることが明らかになりました。従って、生殖抑制ホルモンの働きにより女性ホルモン合成酵素の活性が著しく高まると、脳内の女性ホルモン量が過剰になり雄の攻撃性が抑制されると考えられます。

■ 掲載論文
Ubuka T, Haraguchi S, Tobari Y, Narihiro M, Ishikawa K, Hayashi T, Harada N and Tsutsui K.
Hypothalamic inhibition of socio-sexual behaviour by increasing neuroestrogen synthesis.
Nature Communications, 5, Article number 3061 doi:10.1038/ncomms4061, 2014
2013年8月27日
    哺乳類の雌雄の性差構築を制御する新たな分子機構の解明
            ―転写因子Six1/Six4は、マウス生殖腺形成と雄性分化を制御する―
(公募班:田中、金井 計画班:諸橋)
ほ乳類の雌雄の性差が初めて生じるのは、妊娠中期の胎仔において、Y染色体上に存在する性決定遺伝子Sryが生殖腺原基において発現することに始まる。しかし、この性差構築の"もと"となる生殖腺原基の形成機構や、Sryの発現制御機構については、未だ十分には明らかにされていない。今回我々は、転写因子Six1/Six4が、生殖腺原基の形成と、Sryの発現制御を介してその後の精巣への分化誘導の2つの機構の両方を、それぞれ異なる分子カスケードにより制御していることを明らかにした。XY型のSix1/Six4変異マウス胚では、Sryの発現が低下し雄性分化異常を示した。また、性分化前に形成される生殖腺原基の前駆細胞数が雌雄ともに減少しており、形成された生殖腺の大きさは小さかった。しかし、Sryを外来性に強制発現させることにより精巣分化が誘導されたことから、最初に形成される生殖腺原基が小さくとも、Sryが十分量発現していれば、雄へと分化することが明らかとなった。さらに、Six1/Six4下流標的遺伝子として、生殖巣原基の前駆細胞の形成に必須な核内レセプターAd4BP(別名: Nr5a1/Sf1)と、Sryの発現を制御する転写因子Fog2(別名: Zfpm2)を同定した。そして、Six1/Six4-Ad4BP経路が、生殖腺原基の形成制御を行い生殖腺の大きさを決定し、それとは独立してSix1/Six4-Fog2経路が、Sryの発現制御を介して性の決定を行っていることを明らかにした(図参照)。

図:Six1/Six4-Ad4BP経路が生殖腺の大きさを規定し、それとは独立して、Six1/Six4-Fog2経路がSryの発現制御を介して性の決定を制御する。
■ 掲載論文
Fujimoto Y, *Tanaka SS, Yamaguchi YL, Kobayashi H, Kuroki S, Tachibana M, Shinomura M, Kanai Y, Morohashi K, Kawakami K and *Nishinakamura R. (*corresponding authors)
Homeoproteins Six1 and Six4 regulate male sex determination and mouse gonadal development.
Developmental Cell, doi.org/10.1016/j.devcel.2013.06.018, 2013
2013年4月2日
    女性特有の“働かない”X染色体の仕組みを解明 (公募班:長尾)
哺乳類の雌で見られるX染色体の不活性化は、発生の最も初期に見られる性差の一つです。雌の細胞では、雄の細胞と同じく見かけのX染色体の数を1本とするために、2本のX染色体のどちらか1本が働かないようになっています。この”働かない”X染色体は、働かないように小さく折りたたまれて凝縮し、「バー小体」と呼ばれる構造を作っていることが古くから知られていました。またバー小体は細胞のDNAを染色するだけで簡単に観察できることから、古くはオリンピックでの性別判定にも使われていました。しかし、どのようにして働かないX染色体が小さく折りたたまれるのかの仕組みはわかっていませんでした。私たちは今回、HBiX1-SMCHD1タンパク質複合体が、バー小体の形成に必須であることを見いだしました (図)。またHBiX1-SMCHD1複合体はX染色体以外でも機能していることから、更なる解析により染色体の高次構造によって作り出される性差が明らかになると予想されます。
■ 掲載論文
Nozawa RS, Nagao K, Igami KT, Shibata S, Shirai N, Nozaki N, Sado T, Kimura H and Obuse C.
Human inactive X chromosome is compacted through a PRC2-independent SMCHD1-HBiX1 pathway.
Nature Structural & Molecular Biology, 20, 566-573, 2013
2012年8月31日
    子宮腺の発生カスケード明らかとなる (計画班:山田)
分泌腺の形成は、性差をしばしば呈する重要な形態形成である。
子宮腺(UG)は子宮内膜に発生する分泌器官であり、初期胚の着床や成育に極めて重要な働きをしている。子宮に発生する雌の分泌線として、子宮線の発生過程に作用する遺伝子カスケードは、ほぼ未解明であった。

今回の論文は、子宮腺の発生に重要な細胞増殖因子系として、カノニカルWnt/Betaカテニン系を同定した。
また、その下流で機能する因子としてFoxa2遺伝子を同定した。Foxa2のWnt/Betaカテニンによる制御は、プロモータ内のLEF/TCF結合部位を介していることがChip解析等により明らかとなった。

更にFoxa2遺伝子は、子宮腺の細胞増殖制御をサイクリン等の細胞周期制御遺伝子群を介して行っている事が示唆された。このような知見は、Wnt-Foxa2遺伝子のカスケードが、腺細胞の過剰増殖疾患である子宮内膜過形成などに関与する可能性を示唆していた。

また、Foxa2遺伝子は前立腺等の雄型の分泌器官上皮においても発現し、その機能が報告されつつある。同遺伝子の雄型、雌型の分泌線での機能解析が今後さらに必要と考えられた。

Betaカテニン 遺伝子の機能獲得型変異(GOF)は、マウスモデルにおいて子宮腺の過形成を誘導する。同遺伝子のGOF型変異のミュータントの子宮組織片を、マウスに移植を行い、in vivoにおいてホルモン存在下で発生させた。其の結果Foxa2を発現する(茶褐色で染色される)子宮腺の過形成が誘導された(右側図(その拡大像が右端))。対象群の子宮試料においては、このような子宮腺の過形成は見出されない。
■ 掲載論文
*Villacorte M, *Suzuki K, Hirasawa A, Ohkawa Y, Suyama M, Maruyama T, Aoki D, Ogino Y, Miyagawa S, Terabayashi T, Tomooka Y, Nakagata N and Yamada G. (*equaly contributed first author)
Beta-catenin signaling regulates Foxa2 expression during endometrial hyperplasia formation.
Oncogene, 32, 3477-3482, 2013
2010年8月24日
    アフリカツメガエルZZ/ZW型性決定様式の分子機構の解明
             〜 性決定遺伝子DM-Wはアンチ精巣形成遺伝子である? (計画班:伊藤)
雌ヘテロ(ZZ/ZW)型の性決定様式をもつアフリカツメガエルでは、常染色体上のDMRT1遺伝子が雄誘導性遺伝子であり、そのパラログのDM-W遺伝子(W染色体にリンク)が雌誘導性の性決定遺伝子であることが、トランスジェニック個体の解析等からわかった(図1A)。さらに、組織学的およびin vitro転写活性化の解析から、【ZW生殖巣の始原生殖細胞の支持細胞において、DM-WはDMRT1の転写因子としての機能を阻害し、結果的に卵巣形成を導く】、という性決定モデルを提案した(図1B)。また本研究は、哺乳類以外の脊椎動物種の性決定システムにおいて、DMRT1駆動型雄決定(DMRT1-driven male sex determination)機構の進化的保存の可能性を示唆する(表1)。
■ 掲載論文
Yoshimoto S, Ikeda N, Izutsu Y, Shiba T, Takamatsu N and Ito M.
Opposite roles of DMRT1 and its W-linked paralogue, DM-W in sexual dimorphism of Xenopus laevis: Implications of a ZZ/ZW-type sex-determining system.
Development, 137, 2519-2526, 2010
2010年8月18日
    第14染色体インプリンティングセンターの同定とその展望 (計画班:緒方)
通常ヒトの遺伝子は、父と母から1つずつ受け継がれ、どちらの親由来であっても同じように働きます。ところが、例外的に父由来のときのみに働く遺伝子や、母由来のときのみに働く遺伝子が染色体の一部分に集積して存在しています。このような遺伝子をインプリンティング遺伝子と呼びます。これは、哺乳類のみに見られる現象で、2つある遺伝子の片方を働かなくさせるという不利益なことをしてまでインプリンティング遺伝子が進化した理由は、それが胎盤の獲得に必須であったためです。インプリンティング遺伝子は1つしか働いていないので、遺伝子の異常がすぐに様々な障害として現れます。私たちは、これまでに第14染色体上のインプリンティング遺伝子としてRTL1やDLK1を同定し、これらの遺伝子異常が特徴的な先天奇形症候群や成長障害をひきおこすことを報告してきました(Nature Genetics 2008 ほか)。

その後、第14染色体上のインプリンティングセンター、つまり遺伝子のインプリンティングを制御している場所の同定を進めてきました。そして、今回、世界で初めて、胎盤側と胎児側において異なる2つのインプリンティングセンター(IG-DMRとMEG3-DMR)が存在すること、および受精後に確立されるインプリンティングセンター(MEG3-DMR)は胎児(つまり各種臓器)の正常な形成に必須であることを突き止めました。この発見は、インプリンティング異常によりおこる病気の確定診断など、直接的に患者さんや家族に有用です。さらに、体外受精などの生殖補助医療や臨床応用に向けたiPS細胞の安全性を評価するために極めて重要であり、必須の検査となっていくと思われます。そして、親由来特異的な性差を伴う遺伝子制御の解明にも大きく貢献すると期待されます。
掲載雑誌 PLoS Genetics 日本時間6月18日朝6時解禁
■ 掲載論文
Kagami M, O'Sullivan MJ, Green AJ, Watabe Y, Arisaka O, Masawa N, Matsuoka K, Fukami M, Matsubara K, Kato F, Ferguson-Smith AC and Ogata T.
The IG-DMR and the MEG3-DMR at human chromosome 14q32.2: hierarchical interaction and distinct functional properties as imprinting control centers.
PLoS Genet, 6, e1000992, 2010
 
■ 掲載新聞
読売新聞(夕刊) 2010年7月8日   先天性疾患の原因解明
2010年8月12日
    メダカ卵巣で生殖幹細胞が同定される 〜性的可塑性をもたらす組織構造か? (計画班:田中)

図1:Sox9b 発現細胞 (緑) が構成するネットワーク構造(ovarian cord)。 卵形成最初期の生殖細胞(赤)がネットワーク構造内に分布している。
卵巣の胚上皮と呼ばれる構造の中に、哺乳類では精巣にしか発現せず、かつ精巣分化に必須の遺伝子 sox9 を発現する細胞がネットワーク構造を作っていることが見いだされました (図1)。このなかの Germinal Cradle (生殖細胞のゆりかご)と呼ぶことにした領域に生殖幹細胞が存在することが、クローン解析を用いて証明されました。精巣には生殖幹細胞が存在し、精子を作り続けることが示されていますが、卵巣では胎児期に形成される卵母細胞のプールから供給されるのか、新たに卵新生が行われるのかは謎でした。今回の結果は、成体卵巣でも卵が新たに作られることを示しています(図2)。生殖幹細胞は性的に未分化であると予想され、精巣と共通の構造単位の中に存在することから、性的可塑性の組織学的基盤とも予想されます。

図2:ネットワーク内の「生殖細胞のゆりかご」構造内の生殖幹細胞から卵が形成される模式図。
■ 掲載論文
Nakamura S, Kobayashi K, Nishimura T, Higashijima S and Tanaka M.
Identification of Germline Stem Cells in the Ovary of the Teleost Medaka.
Science, 328, 1561-1563, 2010

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